膜翅目(Hymenoptera) ハバチ科(Cecidomyiidae)
[形態]
ハバチ科では、マルハバチ亜科の近縁2属とヒゲナガハバチ亜科の近縁3属が、虫えい形成者として知られている。虫えいを形成するハバチ類の大部分は、ヒゲナガハバチ亜科の3属にぞくし、すべての種がヤナギ科の植物を寄主植物としている。この3属(Phyllocolpa Pontania Euura)の成虫はよく似ていて、外部の形態で区別するのは難しい。成虫の体長5mm以下で、体色は通常黒色。前翅の径室には径横脈がなく、第1腎室は小室とならず、縁紋の先端半分は濃く、基部半分は淡色となる。触角挿入口の外縁は深い溝となって、複眼先端の後方まで落ち込んでいる。後脚の脛節距は短く、脛節先端部の幅と同長かやや短い。
[生態]
ヒゲナガハバチ亜科の種は寄主特異性が強く、1種または近縁種群のヤナギに虫えいを形成し、一般に単食性の傾向が強い。成虫はヤナギの芽吹きがはじまる早春に、種ごとに一斉に羽化することが多く、寿命は1週間前後で、葉上の露を吸う他、寄主の花粉や密を摂食する。寄主植物に飛来した雌雄が交尾を済ませ、雌成虫はそれぞれの属や種によって決まった部位に、鋸状の産卵管で植物組織を切り開き、空所を作って卵を産み込む。そのとき卵とともに生殖器の付属腺から卵台液を注入する。生長途中の代謝の盛んな組織は、注入された液中の化学物質に反応して、ただちに虫えい形成をはじめる。とくに Pontania属および Euura属では組織の肥大と細胞の異常増殖により、顕著な虫えいが形成される。虫えいの大きさは注入液の刺激と植物側の反応によってきまる。幼虫の摂食刺激や幼虫が分泌する化学物質が、虫えいの成長を促進すると考えられるが、多くの種では、卵期または幼虫の若齢期に虫えいが完成する。Phyllocolpa属では、産卵後2〜3日で虫えいが完成し、幼虫の孵化はそれ以後数日を必要とする。
[幼虫から蛹期]
虫えいには通常1匹の幼虫が入っている。Euura属のうち茎に虫えいを作る種は、1〜数匹の幼虫が1つの虫えいで生活する。孵化した幼虫は完成または完成途中の虫えいの内壁を摂食して成長する。Phyllocolpa属のハオレフシを作る幼虫は、成長すると虫えいの外部にも出て周辺の葉を食べる。これらの幼虫は糞や脱皮殻を外に捨てて、幼虫室を清掃する習性を持っている。Pontania属の中で主脈を避けて虫えいを作るハバチや、Euura属の葉柄に虫えいを作るハバチも、終齢になる前から虫えい壁に小孔を開けて、糞などを外に捨てて清潔に保って、摂食を続ける。また、Pontania属の若齢幼虫は、排泄物を虫えい壁に埋め込む性質がある。
幼虫は雌では6齢、雄では5齢である。幼虫期間は種によって異なり、約1ヶ月の種や数ヶ月間にもおよぶ幼虫期間の長い種もあるが、いずれも年1世代で、成熟した幼虫は虫えいを脱出して地上に降りるか、虫えいが地上に落下した後脱出して、地中で繭を紡ぐ。前蛹態で越冬し、翌春に蛹化して羽化するが、Euura属の茎に虫えいを作るハバチの幼虫は、脱出せずに内部にとどまって、蛹化の前に虫えいの一端に脱出孔を開け、木屑でいったん孔をふさいで越冬する。
[虫えいの形状]
虫えいの形は大きく2つの型に分かれる。1つは Phyllocolpa属が作る開放型の虫えいで、葉を巻くハマキ型と、葉を折りたたむハオレ型で、いずれも雌の卵台液の生理的反応により、葉の変形や変質の結果形成されるが、異常な細胞の増殖や肥大はみられず、虫えいはこぶ状にはならない。
もう1つは Pontania属と Euura属が葉、茎、芽、葉柄に作る閉鎖型の虫えいで、顕著なこぶ状となり幼虫室は外部と遮断される。Pontania属の虫えいはハバチ類の中では最も代表的なもので、大部分がこの属のもので、次の5型に類別できる。
(1)主脈から独立して形成される虫えい
(A)葉表に突出する
(B)葉の表裏両面に突出する
(2)主脈に接して形成される虫えい
(C)葉の表裏両面に大きく突出する
(D)葉の主として裏面に突出する
(E)葉裏に球形に突出する