膜翅目(Hymenoptera) タマバチ科(Cynipidae)

[形態]
 タマバチ科は、ブナ科やバラ科、キク科などの植物に虫えいを形成するタマバチ亜科と、その虫えいに同居(寄食、寄居)して生活するヤドカリタマバチ亜科とに分かれる。成虫は一般に小型で1〜6mm、黒色ないし赤褐色、頭部や胸部は平滑または点刻で有毛、腹部は平滑で光沢がある。頭部は小さく、ときに胸部の前下方にかくれ下向きになる。脚は細小、翅は有翅かまたは無翅、翅脈は少なく小室とともに5室である。雄の腹部は小形で雌は大形、産卵管は腹部下面の中央から生じて長い。幼虫は無脚で乳白色、卵には糸状の長い柄がある。
 タマバチの虫えいは、タマバエ科に次いでその種類も多く、形態あるいは生態に特異的なものが多い。

[生態]
 タマバチ類の生活史は複雑で、これを整理すると次のようになる。
(1)年1世代で両性生殖するもの(年1世代・両性生殖型)
 バラ科に虫えいを作る3種、キク科に虫えいを作る3種、ブナ科に虫えいを作る1種が該当する。虫えいは年内に成熟するが、成虫は翌年晩春から初夏に出現する。
(2)年1世代で雄がなく雌のみで単性生殖するもの(年1世代・単性生殖型)
 虫えいは5〜6月に成熟し、成虫は6〜7月に出現して翌年発芽の若芽に産卵するものと、5〜6月に成熟して落下し、成虫は秋に羽化して翌春出現して芽に産卵するものがある。中にはカシワメオオニセタマバチの虫えいのように、春に出現して秋に成熟するものもある。
(3)単性世代と両性世代を交互に繰り返すもの(年2世代・世代交代型)
 タマバチの生活史の中では最も複雑で、単性世代と両性世代では、その虫えいや成虫がまったく相違しているため、しばしば別種として取り扱われていた。

[タマバチの世代交代]
 両性世代は春の虫えいで若芽および若葉、若枝、花、幼果に形成され、単性世代は秋の虫えいで根、芽、枝、葉、花、果実に形成される。両性世代は短期で終わるが、単性世代は越冬期をはさんで長期にわたる。ほとんどの種が晩秋に羽化して成虫となり、一部は出現して産卵するが、多くは虫えい内で成虫越冬し、翌春に出現して産卵する。タマバチの一部の種では幼虫期間が1年延長して翌々春に成虫が出現するものや、単性世代虫えいの出現期の2分化によって、半数は同年の夏から秋に出現し、半数は翌年の春に出現するなど、世代交代の経過がますます複雑になって、同時に単性、両性世代の虫えいがみられる。

[虫えいの形態と発育]
 虫えいの中心には幼虫室があって、周囲に栄養層があり発育期間中は漿質で成熟するにつれて乾固する。室壁は堅くなっつて虫えい全体が乾縮し、摂食を終わった内部の幼虫を保護する。虫えいの出現期はおおむね春、夏、秋の3季節に分けることができる。
(1)春の虫えい
 4〜6月に出現する虫えいは、世代交代をするタマバチの両性世代のもので、その発育はきわめて早い。とくにブナ科の雄花に形成されるものは、花期が短く、開花後まもなく凋落するので、虫えいは雄花が生気を保っている間に成熟しなければならない。花に形成されるものは小形で、若葉や若い茎に形成されるものは幼虫室が組織内に埋蔵されることが多い。
(2)夏の虫えい
 7〜8月に出現する虫えいは、年1世代のタマバチによるもので、ブナ科に形成する単性生殖のもの、バラ科およびキク科に形成する両性生殖のものがある。また世代交代する種の単性世代の虫えいが、この季節に出現するものがある。
(3)秋の虫えい
 9〜10月に出現する虫えいは、バラ科およびキク科の虫えいで、夏に出現したものが引き続いて生育する。また単性世代の夏に出現した虫えいも、この時期に発育の最盛期をむかえる。秋の虫えいは出現が次々に継続して長期にわたり、早期のものが落下する頃、後期のものはなお出現発育中である。一般に秋の虫えいは春の虫えいにくらべて大形である。